5 リーダーシップ及び働く人の参加
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
トップマネジメントは,次に示す事項によって,労働安全衛生マネジメントシステムに関するリーダー
シップ及びコミットメントを実証する。
a) 労働に関係する負傷及び疾病を防止すること,及び安全で健康的な職場と活動を提供することに対す
る全体的な責任及び説明責任を負う。
b) 労働安全衛生方針及び関連する労働安全衛生目標を確立し,それらが組織の戦略的な方向性と両立す
ることを確実にする。
c) 組織の事業プロセスへの労働安全衛生マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする。
d) 労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,維持及び改善に必要な資源が利用可能であること
を確実にする。
e) 有効な労働安全衛生マネジメント及び労働安全衛生マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達する。
f) 労働安全衛生マネジメントシステムがその意図した成果を達成することを確実にする。
g) 労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を指揮し,支援する。
h) 継続的改善を確実にし,推進する。
i) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を
支援する。
j) 労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を支援する文化を組織内で形成し,主導し,かつ,
推進する。
k) 働く人がインシデント,危険源,リスク及び機会の報告をするときに報復から擁護する。
l) 組織が働く人の協議及び参加のプロセスを確立し,実施することを確実にする(5.4 参照)。
m) 安全衛生に関する委員会の設置及び委員会が機能することを支援する[5.4 e) 1) 参照]。
注記 この規格で“事業”という場合は,組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解
釈され得る。
5.2 労働安全衛生方針
トップマネジメントは,次の事項を満たす労働安全衛生方針を確立し,実施し,維持する。
a) 労働に関係する負傷及び疾病を防止するために,安全で健康的な労働条件を提供するコミットメント
を含み,組織の目的,規模及び状況に対して,また,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会の固
有の性質に対して適切である。
b) 労働安全衛生目標の設定のための枠組みを示す。
c) 法的要求事項及びその他の要求事項を満たすことへのコミットメントを含む。
d) 危険源を除去し,労働安全衛生リスクを低減するコミットメントを含む(8.1.2 参照)。
e) 労働安全衛生マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む。
f) 働く人及び働く人の代表(いる場合)の協議及び参加へのコミットメントを含む。
労働安全衛生方針は,次に示す事項を満たす。
- 文書化した情報として利用可能である。
- 組織内に伝達される。
- 必要に応じて,利害関係者が入手可能である。
- 妥当かつ適切である。
5.3 組織の役割,責任及び権限
トップマネジメントは,労働安全衛生マネジメントシステムの中の関連する役割に対して,責任及び権
限が,組織内に全ての階層で割り当てられ,伝達され,文書化した情報として維持されることを確実にする。組織の各階層で働く人は,各自が管理する労働安全衛生マネジメントシステムの側面
について責任を負う。
注記 責任及び権限は割り当てし得るが,最終的には,トップマネジメントは労働安全衛生マネジメ
ントシステムの機能に対して説明責任をもつ。
トップマネジメントは,次の事項に対して,責任及び権限を割り当てる。
a) 労働安全衛生マネジメントシステムが,この規格の要求事項に適合することを確実にする。
b) 労働安全衛生マネジメントシステムのパフォーマンスをトップマネジメントに報告する。
5.4 働く人の協議及び参加
組織は,労働安全衛生マネジメントシステムの開発,計画,実施,パフォーマンス評価及び改善のため
の処置について,適用可能な全ての階層及び部門の働く人及び働く人の代表(いる場合)との協議及び参
加のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持する。
組織は,次の事項を行う。
a) 協議及び参加のための仕組み,時間,教育訓練及び資源を提供する。
注記1 働く人の代表制は,協議及び参加の仕組みになり得る。
b) 労働安全衛生マネジメントシステムに関する明確で理解しやすい,関連情報を適宜利用できるように
する。
c) 参加の障害又は障壁を決定して取り除き,取り除けない障害又は障壁を最小化する。
注記2 障害及び障壁には,働く人の意見又は提案への対応の不備,言語又は識字能力の障壁,報
復又は報復の脅し,及び働く人の参加の妨げ又は不利になるような施策又は慣行が含まれ
得る。
d) 次の事項に対する非管理職との協議に重点を置く。
1) 利害関係者のニーズ及び期待を決定すること(4.2 参照)。
2) 労働安全衛生方針を確立すること(5.2 参照)。
3) 該当する場合は,組織上の役割,責任及び権限を,必ず,割り当てること(5.3 参照)。
4) 法的要求事項及びその他の要求事項を満足する方法を決定すること(6.1.3 参照)。
5) 労働安全衛生目標を確立し,かつ,その達成を計画すること(6.2 参照)。
6) 外部委託,調達及び請負者に適用する管理を決定すること(8.1.4 参照)。
7) モニタリング,測定及び評価を要する対象を決定すること(9.1 参照)。
8) 監査プログラムを計画し,確立し,実施し,かつ,維持すること(9.2.2 参照)。
9) 継続的改善を確実にすること(10.3 参照)。
e) 次の事項に対する非管理職の参加に重点を置く。
1) 非管理職の協議及び参加のための仕組みを決定すること。
2) 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価をすること(6.1.1 及び6.1.2 参照)。
3) 危険源を除去し労働安全衛生リスクを低減するための取組みを決定すること(6.1.4 参照)。
4) 力量の要求事項,教育訓練のニーズ及び教育訓練を決定し,教育訓練の評価をすること(7.2 参照)。
5) コミュニケーションの必要がある情報及び方法の決定をすること(7.4 参照)。
6) 管理方法及びそれらの効果的な実施及び活用を決定すること(8.1,8.1.3 及び8.2 参照)。
7) インシデント及び不適合を調査し,是正処置を決定すること(10.2 参照)。
注記3 非管理職への協議及び参加に重点を置く意図は,労働活動を実施する人を関与させることで
あって,例えば,労働活動又は組織の他の要因で影響を受ける管理職の関与を除くことは意
図していない。
注記4 働く人に教育訓練を無償提供すること,可能な場合,就労時間内で教育訓練を提供すること
は,働く人の参加への大きな障害を除き得ることが認識されている。