労働安全衛生マネジメントシステム-要求事項及び利用の手引

 

目次

序文4

0.1 背景4

0.2 労働安全衛生マネジメントシステムの狙い4

0.3 成功のための要因4

0.4 Plan-Do-Check-Act サイクル5

0.5 この規格の内容5

1 適用範囲7

2 引用規格8

3 用語及び定義9

4 組織の状況17

4.1 組織及びその状況の理解17

4.2 働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解17

4.3 労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定17

4.4 労働安全衛生マネジメントシステム17

5 リーダーシップ及び働く人の参加18

5.1 リーダーシップ及びコミットメント18

5.2 労働安全衛生方針18

5.3 組織の役割,責任及び権限19

5.4 働く人の協議及び参加19

6 計画21

6.1 リスク及び機会への取組み21

6.2 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定23

7 支援25

7.1 資源25

7.2 力量25

7.3 認識25

7.4 コミュニケーション25

7.5 文書化した情報26

8 運用28

8.1 運用の計画及び管理28

8.2 緊急事態への準備及び対応29

9 パフォーマンス評価30

9.1 モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価30

9.2 内部監査30

9.3 マネジメントレビュー31

10 改善33

10.1 一般33

10.2 インシデント,不適合及び是正処置33

10.3 継続的改善33

序文

この規格は,2018 年に第1 版として発行されたISO 45001 を基に,技術的内容及び構成を変更することなく作成した日本工業規格である。

0.1 背景

組織は,働く人及び組織の活動によって影響を受ける可能性のあるその他の人々の労働安全衛生に対する責任を負っている。この責任には,心身の健康を推進し保護することが含まれる。

労働安全衛生マネジメントシステムの導入の目的は,組織が安全で健康的な職場を提供できるようにし,労働に関係する負傷及び疾病を防止し,労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善できるようにすることである。

0.2 労働安全衛生マネジメントシステムの狙い

労働安全衛生マネジメントシステムの目的は,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会を管理するた

めの枠組みを提供することである。労働安全衛生マネジメントシステムの狙い及び意図した成果は,働く人の労働に関係する負傷及び疾病を防止すること,及び安全で健康的な職場を提供することである。したがって,効果的な予防方策及び保護方策をとることによって危険源を除去し,労働安全衛生リスクを最小化することは,組織にとって非常に重要である。

労働安全衛生マネジメントシステムを通じて組織がこれらの処置を適用したとき,組織の労働安全衛生パフォーマンスは向上する。労働安全衛生パフォーマンス改善の機会に取り組むために早めの処置をとる際に,労働安全衛生マネジメントシステムは,効果及び効率を更に高めることができる。

この規格に適合するかたちでの労働安全衛生マネジメントシステムの実施は,組織が労働安全衛生リスクを管理し,労働安全衛生パフォーマンスを向上させることを可能にする。

労働安全衛生マネジメントシステムは,組織が,法的要求事項及びその他の要求事項を満たす助けとなり得る。

0.3 成功のための要因

労働安全衛生マネジメントシステムの実施は,組織にとって戦略的決定であり運用面の決定である。労働安全衛生マネジメントシステムの成功は,リーダーシップ,コミットメント,並びに組織の全ての階層及び部門からの参加のいかんにかかっている。

労働安全衛生マネジメントシステムの実施及び維持,並びにその有効性及び意図した成果を達成する能力は,多数の重要な要因に依存している。それらの要因には,次の事項が含まれ得る。

a) トップマネジメントのリーダーシップ,コミットメント,責任及び説明責任

b) 労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を支援する文化をトップマネジメントが組織内で形成し,主導し,推進すること

c) コミュニケーション

d) 働く人及び働く人の代表(いる場合)の協議及び参加

e) 労働安全衛生マネジメントシステム維持のために必要な資源の割振り

f) 組織の全体的な戦略目標及び方向性と両立する,労働安全衛生方針

g) 危険源の特定,労働安全衛生リスクの管理及び労働安全衛生機会の活用のための効果的なプロセス

h) 労働安全衛生パフォーマンスを改善するための労働安全衛生マネジメントシステムの継続的なパフォーマンス評価及びモニタリング

 

i) 組織の事業プロセスへの労働安全衛生マネジメントシステムの統合

j) 労働安全衛生方針に整合し,組織の危険源,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会を考慮に入れた労働安全衛生目標

k) 法的要求事項及びその他の要求事項の順守

組織は,この規格をうまく実施していることを示せば,有効な労働安全衛生マネジメントシステムをも

つことを,働く人及びその他の利害関係者に確信させることができる。しかし,この規格の採用そのものが,働く人の労働関連の負傷及び疾病の防止,安全で健康的な職場の提供,並びに改善された労働安全衛生パフォーマンスを保証するわけではない。

組織の労働安全衛生マネジメントシステムの詳細さのレベル,複雑さ,文書化した情報の範囲,及び成功を確実にするために必要な資源は,次の事項などの多数の要因によって左右される。

- 組織の状況(例 働く人の人数,規模,立地,文化,法的要求事項及びその他の要求事項)

- 組織の労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲

- 組織の活動の性質及び関連する労働安全衛生リスク

0.4 Plan-Do-Check-Act サイクル

この規格において採用する労働安全衛生マネジメントシステムアプローチは,Plan-Do-Check-ActPDCA)の概念に基づいている。

PDCA の概念は,継続的改善を達成するために組織が用いる反復的なプロセスである。この概念は,マネジメントシステムにも,その個別の要素のそれぞれにも次のように適用できる。

a) Plan:労働安全衛生リスク,労働安全衛生機会,その他のリスク及びその他の機会を決定し,評価し,組織の労働安全衛生方針に沿った結果を出すために必要な労働安全衛生目標及びプロセスを確立する。

b) Do:計画どおりにプロセスを実施する。

c) Check:労働安全衛生方針及び労働安全衛生目標に照らして,活動及びプロセスをモニタリングし,測定し,その結果を報告する。

d) Act:労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善し,意図した成果を達成するための処置をとる。

この規格は,図1 に示すように,新しい枠組みの中にこのPDCA の概念を取り入れている。

 

注記 括弧内の数字は,この規格の箇条番号を示す。

1PDCA とこの規格の枠組みとの関係

0.5 この規格の内容

この規格は,国際標準化機構(ISO)のマネジメントシステム規格に対する要求事項に適合している。

これらの要求事項は,複数のISOマネジメントシステム規格を実施する利用者の便益のために作成された,上位構造,共通の中核となるテキスト,共通用語及び中核となる定義を含んでいる。

この規格の諸要素は,他のマネジメントシステムの諸要素に整合化し,又はそれらと統合することができるが,この規格には,品質,社会的責任,環境,セキュリティ,財務マネジメントなどの他の分野に固有な要求事項は含まれていない。

この規格は,労働安全衛生マネジメントシステムの実施及び適合性の評価のために組織によって用いることができる要求事項を規定している。組織は,次のいずれかの方法によって,この規格への適合を実証することができる。

- 自己決定し,自己宣言する。

- 適合について,組織に対して利害関係をもつ人又はグループ,例えば,顧客などによる確認を求める。

- 自己宣言について組織外部の人又はグループによる確認を求める。

- 外部組織による労働安全衛生マネジメントシステムの認証/登録を求める。

この規格の箇条1~箇条3 は,この規格の使用において適用する適用範囲,引用規格,用語及び定義を

示し,一方で,箇条4~箇条10 には,この規格への適合を評価するための要求事項を規定している。附属書A には,これらの要求事項の説明が記載されている。箇条3 の用語及び定義は,概念の順に配列した。

この規格では,次のような表現形式を用いている。

a) “~しなければならないshall)は,要求事項を示し,

b) “~することが望ましいshould)は,推奨を示し,

c) “~してもよいmay)は,許容を示し,

d) “~することができる~できる~し得るなど(can)は,可能性又は実現能力を示す。

“注記”に記載している情報は,関連する要求事項の内容を理解するための,又は明解にするための手引である。箇条3 で用いている注記は,用語データを補完する追加情報を示すほか,用語の使用に関する規定事項を含む場合もある。

1 適用範囲

この規格は,労働安全衛生(OH&S)マネジメントシステムの要求事項について規定する。また,労働安全衛生パフォーマンスを積極的に向上させ,労働に関連する負傷及び疾病を防止することによって,組織が安全で健康的な職場を提供できるようにするために,利用の手引を記載している。

この規格は,労働安全衛生マネジメントシステムを確立し,実施し,維持することで労働安全衛生を改善し,危険源を除去し,労働安全衛生リスク(システムの欠陥を含む。)を最小化し,労働安全衛生機会を活用し,その活動に付随する労働安全衛生マネジメントシステムの不適合に取り組むことを望む全ての組織に適用できる。

この規格は,組織が労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を達成するために役立つ。労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果は,組織の労働安全衛生方針に整合して,次の事項を含む。

a) 労働安全衛生パフォーマンスの継続的な改善

b) 法的要求事項及びその他の要求事項を満たすこと

c) 労働安全衛生目標の達成

この規格は,規模,業種及び活動を問わず,どのような組織にも適用できる。この規格は,組織の活動が行われる状況,並びに組織で働く人及びその他の利害関係者のニーズ,期待などの要因を考慮に入れた上で,組織の管理下にある労働安全衛生リスクに適用できる。

この規格は,特定の労働安全衛生パフォーマンス基準を定めるものではなく,労働安全衛生マネジメントシステムの設計に関して規定するものでもない。

この規格は,組織がその労働安全衛生マネジメントシステムを通じて,働く人の健康状態又は福利といった安全衛生の他の側面を統合することを可能にする。

この規格は,製品安全,物的損害,環境影響などの課題による働く人及びその他の関連する利害関係者へのリスクを超えてこれらの課題を取り扱うものではない。

この規格は,労働安全衛生マネジメントを体系的に改善するために,全体を又は部分的に用いることができる。しかし,この規格への適合の主張は,全ての要求事項が除外されることなく組織の労働安全衛生マネジメントシステムに組み込まれ,満たされていない限りは容認されない。

注記 この規格の対応国際規格及びその対応の程度を表す記号を,次に示す。

ISO 45001:2018Occupational
health and safety management systems
Requirements with
guidance

for useIDT

なお,対応の程度を表す記号“IDT”は,ISO/IEC Guide 21-1 に基づき,一致していることを示す。

 

2 引用規格

この規格には,引用規格はない。

 

3 用語及び定義

この規格で用いる主な用語及び定義は,次による。

ISO 及びIEC は,標準化に使用するための用語上のデータベースを次のアドレスに維持している。

ISO Online browsing platformhttp://www.iso.org/obp

IEC Electropediahttp://www.electropedia.org/

3.1

組織(organization

自らの目的,目標(3.16)を達成するため,責任,権限及び相互関係を伴う独自の機能をもつ,個人又は人々の集まり。

注記1 組織という概念には,法人か否か,公的か私的かを問わず,自営業者,会社,法人,事務所,企業,当局,共同経営会社,非営利団体若しくは協会,又はこれらの一部若しくは組合せが含まれる。ただし,これらに限定されるものではない。

注記2 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISOマネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.2

利害関係者(interested party)(推奨用語)

ステークホルダー(stakeholder)(許容用語)

ある決定事項若しくは活動に影響を与え得るか,その影響を受け得るか,又はその影響を受けると認識している,個人又は組織(3.1)。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.3

働く人(worker

組織(3.1)の管理下で労働する又は労働に関わる活動を行う者。

注記1 労働又は労働に関わる活動は,正規又は一時的,断続的又は季節的,臨時又はパートタイムなど,有給又は無給で,様々な取決めの下に行われる。

注記2 働く人には,トップマネジメント(3.12),管理職及び非管理職が含まれる。

注記3 組織の管理下で行われる労働又は労働に関わる活動は,組織が雇用する働く人が行っている場合,又は外部提供者,請負者,個人,派遣労働者,及び組織の状況によって,組織が労働又は労働に関わる活動の管理を分担するその他の人が行っている場合がある。

3.4

参加(participation

意思決定への関与。

注記 参加には安全衛生に関する委員会及び働く人の代表(いる場合)を関与させることを含む。

3.5

協議(consultation

意思決定をする前に意見を求めること。

注記 協議には安全衛生に関する委員会及び働く人の代表(いる場合)を関与させることを含む。

3.6

職場(workplace

組織(3.1)の管理下にある場所で,人が労働のためにいる場所,又は出向く場所。

注記 職場に対する労働安全衛生マネジメントシステム(3.11)に基づく組織の責任は,職場に対する管理の度合いによって異なる。

3.7

請負者(contractor

合意された仕様及び契約条件に従い,組織にサービスを提供する外部の組織(3.1)。

注記 サービスにとりわけ建設に関する活動を含めてもよい。

3.8

要求事項(requirement

明示されている,通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている,ニーズ又は期待。

注記1 “通常暗黙のうちに了解されているとは,対象となるニーズ又は期待が暗黙のうちに了解されていることが,組織(3.1)及び利害関係者(3.2)にとって,慣習又は慣行であることを意味する。

注記2 規定要求事項とは,例えば,文書化した情報(3.24)の中で明示されている要求事項をいう。

注記3 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.9

法的要求事項及びその他の要求事項(legal requirements and
other requirements

組織(3.1)が順守しなければならない法的要求事項,及び組織が順守しなければならない又は順守することを選んだその他の要求事項(3.8)。

 

注記1 この規格の目的上,法的要求事項及びその他の要求事項とは,労働安全衛生マネジメントシステム(3.11)に関係する要求事項である。

注記2 “法的要求事項及びその他の要求事項には,労働協約の規定が含まれる。

注記3 法的要求事項及びその他の要求事項には,法律,規則,労働協約及び慣行に基づき,働く人(3.3)の代表である者を決定する要求事項が含まれる。

3.10

マネジメントシステム(management system

方針(3.14),目標(3.16)及びその目標を達成するためのプロセス(3.25)を確立するための,相互に関連する又は相互に作用する,組織(3.1)の一連の要素。

注記1 一つのマネジメントシステムは,単一又は複数の分野を取り扱うことができる。

注記2 システムの要素には,組織の構造,役割及び責任,計画,運用,並びにパフォーマンスの評価及び向上が含まれる。

注記3 マネジメントシステムの適用範囲としては,組織全体,組織内の固有で特定された機能,組織内の固有で特定された部門,複数の組織の集まりを横断する一つ又は複数の機能などがあり得る。

注記4 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。注記2 は,マネジメントシステムのより広範な要素の幾つかを明確にするために修正した。

3.11

労働安全衛生マネジメントシステム(occupational health andsafety management system

OH&S マネジメントシステム(OH&S management system

労働安全衛生方針(3.15)を達成するために使用されるマネジメントシステム(3.10)又はマネジメントシステムの一部。

注記1 労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果は,働く人(3.3)の負傷及び疾病(3.18)を防止すること,並びに安全で健康的な職場(3.6)を提供することである。

注記2 “OH&S”“OSH”の意味は同じである。

3.12

トップマネジメント(top management

最高位で組織(3.1)を指揮し,管理する個人又は人々の集まり。

注記1 労働安全衛生マネジメントシステム(3.11)に関する最終的な責任が保持される限り,トップマネジメントは,組織内で,権限を委譲し,資源を提供する力をもっている。

注記2 マネジメントシステム(3.10)の適用範囲が組織の一部だけの場合,トップマネジメントとは,組織内のその一部を指揮し,管理する人をいう。

注記3 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。注記1 は,労働安全衛生マネジメントシステムに関してトップマネジメントの責任を明確にするために修正した。

3.13

有効性(effectiveness

計画した活動を実行し,計画した結果を達成した程度。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.14

方針(policy

トップマネジメント(3.12)によって正式に表明された組織(3.1)の意図及び方向付け。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

ネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.15

労働安全衛生方針(occupational health and safetypolicy

OH&S 方針(OH&Spolicy

働く人(3.3)の労働に関係する負傷及び疾病(3.18)を防止し,安全で健康的な職場(3.6)を提供するための方針(3.14)。

3.16

目的,目標(objective

達成する結果。

注記1 目的(又は目標)は,戦略的,戦術的又は運用的であり得る。

注記2 目的(又は目標)は,様々な領域[例えば,財務,安全衛生,環境の到達点(goal)]に関連

し得るものであり,様々な階層[例えば,戦略的レベル,組織全体,プロジェクト単位,製品ごと,プロセス(3.25)ごと]で適用できる。

注記3 目的(又は目標)は,例えば,意図した成果,目的(purpose),運用基準など,別の形で表現することもできる。また,労働安全衛生目標(3.17)という表現,又は同じような意味をもつ別の言葉[例狙い(aim),到達点(goal),目標(target)]で表すこともできる。

注記4 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。附属書SLの当初の注記4 は,労働安全衛生目標3.17 において別途定義されているので削除した。

3.17

労働安全衛生目標(occupational health and safetyobjective

OH&S 目標(OH&Sobjective

労働安全衛生方針(3.15)に整合する特定の結果を達成するために組織(3.1)が定める目標(3.16)。

3.18

負傷及び疾病(injury and ill health

人の身体,精神又は認知状態への悪影響。

注記1 業務上の疾病,疾患及び死亡は,これらの悪影響に含まれる。

注記2 “負傷及び疾病という用語は,負傷又は疾病が単独又は一緒に存在することを意味する。

3.19

危険源(hazard

負傷及び疾病(3.18)を引き起こす可能性のある原因。

注記 危険源は,危害又は危険な状況を引き起こす可能性のある原因,並びに負傷及び疾病につながるばく露の可能性のある状況を含み得る。

3.20

リスク(risk

不確かさの影響。

注記1 影響とは,期待されていることから,好ましい方向又は好ましくない方向にかい(乖)離することをいう。

注記2 不確かさとは,事象,その結果又はその起こりやすさに関する,情報,理解又は知識に,たとえ部分的にでも不備がある状態をいう。

注記3 リスクは,起こり得る事象JIS Q 0073:2010 3.5.1.3の定義を参照)及び結果JIS Q

0073:2010 3.6.1.3 の定義を参照),又はこれらの組合せについて述べることによって,その特徴を示すことが多い。

注記4 リスクは,ある事象(その周辺状況の変化を含む。)の結果とその発生の起こりやすさJISQ 0073:2010 3.6.1.1の定義を参照)との組合せとして表現されることが多い。

注記5 この規格では,リスク及び機会という用語を使用する場合は,労働安全衛生リスク(3.21),労働安全衛生機会(3.22),マネジメントシステムに対するその他のリスク及びその他の機会を意味する。

注記6 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISOマネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。注記5 は,“リスク及び機会”という用語をこの規格内で明確に用いるために追加した。

3.21

労働安全衛生リスク(occupational health and safetyrisk

OH&S リスク(OH&Srisk

労働に関係する危険な事象又はばく露の起こりやすさと,その事象又はばく露によって生じ得る負傷及び疾病(3.18)の重大性との組合せ。

3.22

労働安全衛生機会(occupational health and safetyopportunity

OH&S 機会(OH&Sopportunity

労働安全衛生パフォーマンス(3.28)の向上につながり得る状況又は一連の状況。

3.23

力量(competence

意図した結果を達成するために,知識及び技能を適用する能力。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.24

文書化した情報(documented information

組織(3.1)が管理し,維持するよう要求されている情報,及びそれが含まれている媒体。

注記1 文書化した情報は,あらゆる形式及び媒体の形をとることができ,あらゆる情報源から得ることができる。

注記2 文書化した情報には,次に示すものがあり得る。

a) 関連するプロセス(3.25)を含むマネジメントシステム(3.10

b) 組織の運用のために作成された情報(文書類)

c) 達成された結果の証拠(記録)

注記3 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.25

プロセス(process

インプットをアウトプットに変換する,相互に関連する又は相互に作用する一連の活動。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

 

3.26

手順(procedure

活動又はプロセス(3.25)を実行するための所定のやり方。

注記 手順は文書化してもしなくてもよい。

(出典:JIS Q 9000:2015 3.4.5 を修正。注記を修正した。)

3.27

パフォーマンス(performance

測定可能な結果。

注記1 パフォーマンスは,定量的又は定性的な所見のいずれにも関連し得る。結果は,定性的又は定量的な方法で判断し,評価することができる。

注記2 パフォーマンスは,活動,プロセス(3.25),製品(サービスを含む。),システム又は組織(3.1)の運営管理に関連し得る。

注記3 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。注記1 は,結果を判断及び評価するために使われる可能性がある方法の種類を明確にするために修正された。

3.28

労働安全衛生パフォーマンス(occupational health andsafety performance

OH&S パフォーマンス(OH&Sperformance

働く人(3.3)の負傷及び疾病(3.18)の防止の有効性(3.13),並びに安全で健康的な職場(3.6)の提供に関わるパフォーマンス(3.27)。

3.29

外部委託する(outsource)(動詞)

ある組織(3.1)の機能又はプロセス(3.25)の一部を外部の組織(3.1)が実施するという取決めを行う。

注記1 外部委託した機能又はプロセスはマネジメントシステム(3.10)の適用範囲内にあるが,外部の組織はマネジメントシステムの適用範囲の外にある。

注記2 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISOマネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.30

モニタリング(monitoring

システム,プロセス(3.25)又は活動の状況を明確にすること。

注記1 状況を明確にするために,点検,監督又は注意深い観察が必要な場合もある。

注記2 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISOマネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.31

測定(measurement

値を確定するプロセス(3.25)。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.32

監査(audit

監査基準が満たされている程度を判定するために,監査証拠を収集し,それを客観的に評価するための,体系的で,独立し,文書化したプロセス(3.25)。

注記1 監査は,内部監査(第一者)又は外部監査(第二者又は第三者)のいずれでも,及び複合監査(複数の分野の組合せ)でもあり得る。

注記2 内部監査は,その組織(3.1)自体が行うか,又は組織の代理で外部関係者が行う。

注記3 “監査証拠及び監査基準は,JIS Q 19011 で定義されている。

注記4 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISOマネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.33

適合(conformity

要求事項(3.8)を満たしていること。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。

3.34

不適合(nonconformity

要求事項(3.8)を満たしていないこと。

注記1 不適合は,この規格の要求事項,及び組織(3.1)が組織自体のために定める追加的な労働安全衛生マネジメントシステム(3.11)の要求事項に関係する。

注記2 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。注記1 は,この規格の要求事項及び組織の労働安全衛生マネジメントシステムに関する組織自体の要求事項に対する不適合の関係を明確にするために追加した。

3.35

インシデント(incident

結果として負傷及び疾病(3.18)を生じた又は生じ得た,労働に起因する又は労働の過程での出来事。

注記1 負傷及び疾病が生じたインシデントを事故(accidentと呼ぶこともある。

注記2 負傷及び疾病は発生していないが,発生する可能性があるインシデントは,ニアミス(near-missヒヤリ・ハット(near-hit又は危機一髪(close callと呼ぶこともある。

注記3 一件のインシデントに関して一つ又は二つ以上の不適合(3.34)が存在することがあり得るが,インシデントは不適合がない場合でも発生することがあり得る。

3.36

是正処置(corrective action

不適合(3.34)又はインシデント(3.35)の原因を除去し,再発を防止するための処置。

注記 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。この定義は,“インシデント”への言及を盛り込むために修正した。インシデントは,労働安全衛生において極めて重要な要因であるが,解決のために必要な活動は不適合の場合と同じであり,是正処置を通じて行われる。

3.37

継続的改善(continual improvement

パフォーマンス(3.27)を向上するために繰り返し行われる活動。

注記1 パフォーマンスの向上は,労働安全衛生方針(3.15)及び労働安全衛生目標(3.17)に整合する全体的な労働安全衛生パフォーマンス(3.28)の向上を達成するために労働安全衛生マネジメントシステム(3.11)を使用することに関係している。

注記2 継続的(continual)は,連続的(continuous)を意味しないため,活動を全ての分野で同時に行う必要はない。

注記3 これは,ISO/IEC 専門業務用指針第1 部の統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO

マネジメントシステム規格に関する共通用語及び中核となる定義の一つである。注記1 は,労働安全衛生マネジメントシステムにおける“パフォーマンス”の意味を明確にするために追加し,注記2 は,継続的の意味を明確にするために追加した。

4 組織の状況

4.1 組織及びその状況の理解

組織は,組織の目的に関連し,かつ,その労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を決定しなければならない。

4.2 働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解

組織は,次の事項を決定しなければならない。

a) 働く人に加えて,労働安全衛生マネジメントシステムに関連するその他の利害関係者

b) 働く人及びその他の利害関係者の,関連するニーズ及び期待(すなわち,要求事項)

c) それらのニーズ及び期待のうち,いずれが法的要求事項及びその他の要求事項であり,又は要求事項になる可能性があるか。

4.3 労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定

組織は,労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲を定めるために,その境界及び適用可能性を決定しなければならない。

この適用範囲を決定するとき,組織は,次の事項を行わなければならない。

a) 4.1 に規定する外部及び内部の課題を考慮する。

b) 4.2 に規定する要求事項を考慮に入れる。

c) 労働に関連する,計画又は実行した活動を考慮に入れる。

労働安全衛生マネジメントシステムは,組織の管理下又は影響下にあり,組織の労働安全衛生パフォーマンスに影響を与え得る活動,製品及びサービスを含んでいなければならない。

労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲は,文書化した情報として利用可能な状態にしておかなければならない。

4.4 労働安全衛生マネジメントシステム

組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,労働安全衛生マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない。

5 リーダーシップ及び働く人の参加

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

トップマネジメントは,次に示す事項によって,労働安全衛生マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。

a) 労働に関係する負傷及び疾病を防止すること,及び安全で健康的な職場と活動を提供することに対する全体的な責任及び説明責任を負う。

b) 労働安全衛生方針及び関連する労働安全衛生目標を確立し,それらが組織の戦略的な方向性と両立することを確実にする。

c) 組織の事業プロセスへの労働安全衛生マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする。

d) 労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,維持及び改善に必要な資源が利用可能であることを確実にする。

e) 有効な労働安全衛生マネジメント及び労働安全衛生マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達する。

f) 労働安全衛生マネジメントシステムがその意図した成果を達成することを確実にする。

g) 労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を指揮し,支援する。

h) 継続的改善を確実にし,推進する。

i) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を支援する。

j) 労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を支援する文化を組織内で形成し,主導し,かつ,推進する。

k) 働く人がインシデント,危険源,リスク及び機会の報告をするときに報復から擁護する。

l) 組織が働く人の協議及び参加のプロセスを確立し,実施することを確実にする(5.4 参照)。

m) 安全衛生に関する委員会の設置及び委員会が機能することを支援する[5.4 e) 1) 参照]。

注記 この規格で事業という場合は,組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解釈され得る。

5.2 労働安全衛生方針

トップマネジメントは,次の事項を満たす労働安全衛生方針を確立し,実施し,維持しなければならない。

a) 労働に関係する負傷及び疾病を防止するために,安全で健康的な労働条件を提供するコミットメントを含み,組織の目的,規模及び状況に対して,また,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会の固有の性質に対して適切である。

b) 労働安全衛生目標の設定のための枠組みを示す。

c) 法的要求事項及びその他の要求事項を満たすことへのコミットメントを含む。

d) 危険源を除去し,労働安全衛生リスクを低減するコミットメントを含む(8.1.2 参照)。

e) 労働安全衛生マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む。

f) 働く人及び働く人の代表(いる場合)の協議及び参加へのコミットメントを含む。

労働安全衛生方針は,次に示す事項を満たさなければならない。

- 文書化した情報として利用可能である。

- 組織内に伝達される。

- 必要に応じて,利害関係者が入手可能である。

- 妥当かつ適切である。

5.3 組織の役割,責任及び権限

トップマネジメントは,労働安全衛生マネジメントシステムの中の関連する役割に対して,責任及び権限が,組織内に全ての階層で割り当てられ,伝達され,文書化した情報として維持されることを確実にしなければならない。組織の各階層で働く人は,各自が管理する労働安全衛生マネジメントシステムの側面について責任を負わなければならない。

注記 責任及び権限は割り当てし得るが,最終的には,トップマネジメントは労働安全衛生マネジメントシステムの機能に対して説明責任をもつ。

トップマネジメントは,次の事項に対して,責任及び権限を割り当てなければならない。

a) 労働安全衛生マネジメントシステムが,この規格の要求事項に適合することを確実にする。

b) 労働安全衛生マネジメントシステムのパフォーマンスをトップマネジメントに報告する。

5.4 働く人の協議及び参加

組織は,労働安全衛生マネジメントシステムの開発,計画,実施,パフォーマンス評価及び改善のための処置について,適用可能な全ての階層及び部門の働く人及び働く人の代表(いる場合)との協議及び参加のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

組織は,次の事項を行わなければならない。

a) 協議及び参加のための仕組み,時間,教育訓練及び資源を提供する。

注記1 働く人の代表制は,協議及び参加の仕組みになり得る。

b) 労働安全衛生マネジメントシステムに関する明確で理解しやすい,関連情報を適宜利用できるようにする。

c) 参加の障害又は障壁を決定して取り除き,取り除けない障害又は障壁を最小化する。

注記2 障害及び障壁には,働く人の意見又は提案への対応の不備,言語又は識字能力の障壁,報復又は報復の脅し,及び働く人の参加の妨げ又は不利になるような施策又は慣行が含まれ得る。

d) 次の事項に対する非管理職との協議に重点を置く。

1) 利害関係者のニーズ及び期待を決定すること(4.2 参照)。

2) 労働安全衛生方針を確立すること(5.2参照)。

3) 該当する場合は,組織上の役割,責任及び権限を,必ず,割り当てること(5.3 参照)。

4) 法的要求事項及びその他の要求事項を満足する方法を決定すること(6.1.3 参照)。

5) 労働安全衛生目標を確立し,かつ,その達成を計画すること(6.2 参照)。

6) 外部委託,調達及び請負者に適用する管理を決定すること(8.1.4 参照)。

7) モニタリング,測定及び評価を要する対象を決定すること(9.1 参照)。

8) 監査プログラムを計画し,確立し,実施し,かつ,維持すること(9.2.2 参照)。

9) 継続的改善を確実にすること(10.3参照)。

e) 次の事項に対する非管理職の参加に重点を置く。

1) 非管理職の協議及び参加のための仕組みを決定すること。

2) 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価をすること(6.1.1 及び6.1.2 参照)。

3) 危険源を除去し労働安全衛生リスクを低減するための取組みを決定すること(6.1.4 参照)。

4) 力量の要求事項,教育訓練のニーズ及び教育訓練を決定し,教育訓練の評価をすること(7.2 参照)。

5) コミュニケーションの必要がある情報及び方法の決定をすること(7.4 参照)。

6) 管理方法及びそれらの効果的な実施及び活用を決定すること(8.18.1.3 及び8.2 参照)。

7) インシデント及び不適合を調査し,是正処置を決定すること(10.2 参照)。

注記3 非管理職への協議及び参加に重点を置く意図は,労働活動を実施する人を関与させることであって,例えば,労働活動又は組織の他の要因で影響を受ける管理職の関与を除くことは意図していない。

注記4 働く人に教育訓練を無償提供すること,可能な場合,就労時間内で教育訓練を提供することは,働く人の参加への大きな障害を除き得ることが認識されている。

6 計画

6.1 リスク及び機会への取組み

6.1.1 一般

労働安全衛生マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1(状況)に規定する課題,4.2(利害関係者)に規定する要求事項及び4.3(労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲)を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。

a) 労働安全衛生マネジメントシステムが,その意図した成果を達成できるという確信を与える。

b) 望ましくない影響を防止又は低減する。

c) 継続的改善を達成する。

組織は,取り組む必要のある労働安全衛生マネジメントシステム並びにその意図した成果に対するリスク及び機会を決定するときには,次の事項を考慮に入れなければならない。

- 危険源(6.1.2.1 参照)

- 労働安全衛生リスク及びその他のリスク(6.1.2.2 参照)

- 労働安全衛生機会及びその他の機会(6.1.2.3 参照)

- 法的要求事項及びその他の要求事項(6.1.3 参照)

組織は,計画プロセスにおいて,組織,組織のプロセス又は労働安全衛生マネジメントシステムの変更に付随して,労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果に関わるリスク及び機会を決定し,評価しなければならない。永続的か暫定的かを問わず,計画的な変更の場合は,変更を実施する前にこの評価を行わなければならない(8.1.3 参照)。

組織は,次の事項に関する文書化した情報を維持しなければならない。

- リスク及び機会

- 計画どおりに実施されたことの確信を得るために必要な範囲でリスク及び機会(6.1.26.1.4 参照)を決定し,対処するために必要なプロセス及び取組み

6.1.2 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価

6.1.2.1 危険源の特定

組織は,危険源を現状において及び先取りして特定するためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。プロセスは,次の事項を考慮に入れなければならないが,考慮に入れなければならないのはこれらの事項だけに限らない。

a) 作業の編成の仕方,社会的要因(作業負荷,作業時間,虐待,ハラスメント及びいじめを含む。),リーダーシップ及び組織の文化

b) 次から生じる危険源を含めた,定常的及び非定常的な活動及び状況

1) 職場のインフラストラクチャ,設備,材料,物質及び物理的条件

2) 製品及びサービスの設計,研究,開発,試験,生産,組立,建設,サービス提供,保守及び廃棄

3) 人的要因

4) 作業の実施方法

c) 緊急事態を含めた,組織の内部及び外部で過去に起きた関連のあるインシデント及びその原因

d) 起こり得る緊急事態

e) 次の事項を含めた人々

1) 働く人,請負者,来訪者,その他の人々を含めた,職場に出入りする人々及びそれらの人々の活動

2) 組織の活動によって影響を受け得る職場の周辺の人々

3) 組織が直接管理していない場所にいる働く人

f) 次の事項を含めたその他の課題

1) 関係する働く人のニーズ及び能力に合わせることへの配慮を含めた,作業領域,プロセス,据付,機械・機器,作業手順及び作業組織の設計

2) 組織の管理下での労働に関連する活動に起因して生じる,職場周辺の状況

3) 職場の人々に負傷及び疾病を生じさせ得る,職場周辺で発生する,組織の管理下にない状況

g) 組織,運営,プロセス,活動及び労働安全衛生マネジメントシステムの実際の変更又は変更案(8.1.3参照)

h) 危険源に関する知識及び情報の変更

6.1.2.2 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクの評価

組織は,次の事項のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

a) 既存の管理策の有効性を考慮に入れた上で,特定された危険源から生じる労働安全衛生リスクを評価する。

b) 労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,運用及び維持に関係するその他のリスクを決定し,評価する。

組織の労働安全衛生リスクの評価の方法及び基準は,問題が起きてから対応するのではなく事前に,かつ,体系的な方法で行われることを確実にするため,労働安全衛生リスクの範囲,性質及び時期の観点から,決定しなければならない。この方法及び基準は,文書化した情報として維持し,保持しなければならない。

6.1.2.3 労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会の評価

組織は,次の事項を評価するためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

a) 組織,組織の方針,そのプロセス又は組織の活動の計画的変更を考慮に入れた労働安全衛生パフォーマンス向上の労働安全衛生機会及び,

1) 作業,作業組織及び作業環境を働く人に合わせて調整する機会

2) 危険源を除去し,労働安全衛生リスクを低減する機会

b) 労働安全衛生マネジメントシステムを改善するその他の機会

注記 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会は,組織にとってのその他のリスク及びその他の機会となることがあり得る。

6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定

組織は,次の事項のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

a) 組織の危険源,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに適用される最新の法的要求事項及びその他の要求事項を決定し,入手する。

b) これらの法的要求事項及びその他の要求事項の組織への適用方法,並びにコミュニケーションする必要があるものを決定する。

c) 組織の労働安全衛生マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,継続的に改善するときに,これらの法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れる。

組織は,法的要求事項及びその他の要求事項に関する文書化した情報を維持し,保持し,全ての変更を反映して最新の状態にしておくことを確実にしなければならない。

注記 法的要求事項及びその他の要求事項は,組織へのリスク及び機会となり得る。

6.1.4 取組みの計画策定

組織は,次の事項を計画しなければならない。

a) 次の事項を実行するための取組み

1) 決定したリスク及び機会に対処する(6.1.2.2 及び6.1.2.3 参照)。

2) 法的要求事項及びその他の要求事項に対処する(6.1.3 参照)。

3) 緊急事態への準備をし,対応する(8.2参照)。

b) 次の事項を行う方法

1) その取組みの労働安全衛生マネジメントシステムのプロセス,又はその他の事業プロセスへの統合及び実施

2) その取組みの有効性の評価

組織は,取組みの実施を計画する際に,管理策の優先順位(8.1.2 参照)及び労働安全衛生マネジメントシステムからのアウトプットを考慮に入れなければならない。

取組みを計画するとき,組織は,成功事例,技術上の選択肢,並びに財務上,運用上及び事業上の要求事項を考慮しなければならない。

6.2 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定

6.2.1 労働安全衛生目標

組織は,労働安全衛生マネジメントシステム及び労働安全衛生パフォーマンスを維持及び継続的に改善

するために,関連する部門及び階層において労働安全衛生目標を確立しなければならない(10.3参照)。

労働安全衛生目標は,次の事項を満たさなければならない。

a) 労働安全衛生方針と整合している。

b) 測定可能(実行可能な場合)である,又はパフォーマンス評価が可能である。

c) 次を考慮に入れている。

1) 適用される要求事項

2) リスク及び機会の評価結果(6.1.2.2及び6.1.2.3 参照)

3) 働く人及び働く人の代表(いる場合)との協議(5.4 参照)の結果

d) モニタリングする。

e) 伝達する。

f) 必要に応じて,更新する。

6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定

組織は,労働安全衛生目標をどのように達成するかについて計画するとき,次の事項を決定しなければならない。

a)実施事項

b) 必要な資源

c) 責任者

d) 達成期限

e) これには,モニタリングするための指標を含む,結果の評価方法

f) 労働安全衛生目標を達成するための取組みを組織の事業プロセスに統合する方法

組織は,労働安全衛生目標及びそれらを達成するための計画に関する文書化した情報を維持し,保持しなければならない。

7 支援

7.1 資源

組織は,労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,維持及び継続的改善に必要な資源を決定し,提供しなければならない。

7.2 力量

組織は,次の事項を行わなければならない。

a) 組織の労働安全衛生パフォーマンスに影響を与える,又は与え得る働く人に必要な力量を決定する。

b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,働く人が(危険源を特定する能力を含めた)力量を備えていることを確実にする。

c) 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付け,維持するための処置をとり,とった処置の有効性を評価する。

d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。

注記 適用する処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る。

7.3 認識

働く人に,次の事項に関する認識をさせなければならない。

a) 労働安全衛生方針及び労働安全衛生目標

b) 労働安全衛生パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,労働安全衛生マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献

c) 労働安全衛生マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味及び起こり得る結果

d) 働く人に関連するインシデント及びその調査結果

e) 働く人に関連する危険源,労働安全衛生リスク及び決定した取組み

f) 働く人が生命又は健康に切迫して重大な危険があると考える労働状況から,働く人が自ら逃れることができること及びそのような行動をとったことによる不当な結果から保護されるための取決め

7.4 コミュニケーション

7.4.1 一般

組織は,次の事項の決定を含む,労働安全衛生マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションに必要なプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。

a) コミュニケーションの内容

b) コミュニケーションの実施時期

c) コミュニケーションの対象者

1) 組織内部の様々な階層及び部門に対して

2) 請負者及び職場の来訪者に対して

3) 他の利害関係者に対して

d) コミュニケーションの方法

組織は,コミュニケーションの必要性を検討するに当たって,多様性の側面(例えば,性別,言語,文化,識字,心身の障害)を考慮に入れなければならない。

組織は,コミュニケーションのプロセスを確立するに当たって,関係する外部の利害関係者の見解が確実に考慮されるようにしなければならない。

コミュニケーションのプロセスを確立するとき,組織は,次の事項を行わなければならない。

- 法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れる。

- コミュニケーションする労働安全衛生情報が,労働安全衛生マネジメントシステムにおいて作成する情報と整合し,信頼性があることを確実にする。

組織は,労働安全衛生マネジメントシステムについて関連するコミュニケーションに対応しなければならない。

組織は,必要に応じて,コミュニケーションの証拠として,文書化した情報を保持しなければならない。

7.4.2 内部コミュニケーション

組織は,次の事項を行わなければならない。

a) 必要に応じて,労働安全衛生マネジメントシステムの変更を含め,労働安全衛生マネジメントシステムに関連する情報について,組織の様々な階層間及び機能間で内部コミュニケーションを行う。

b) コミュニケーションプロセスが,継続的改善への働く人の寄与を可能にすることを確実にする。

7.4.3 外部コミュニケーション

組織は,コミュニケーションプロセスによって確立したとおりに,かつ,法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れ,労働安全衛生マネジメントシステムに関連する情報について外部コミュニケーションを行わなければならない。

7.5 文書化した情報

7.5.1 一般

組織の労働安全衛生マネジメントシステムは,次の事項を含まなければならない。

a) この規格が要求する文書化した情報

b) 労働安全衛生マネジメントシステムの有効性のために必要であると組織が決定した,文書化した情報

注記 労働安全衛生マネジメントシステムのための文書化した情報の程度は,次のような理由によって,それぞれの組織で異なる場合がある。

- 組織の規模,並びに活動,プロセス,製品及びサービスの種類

- 法的要求事項及びその他の要求事項を満たしていることを実証する必要性

- プロセス及びその相互作用の複雑さ

- 働く人の力量

7.5.2 作成及び更新

文書化した情報を作成及び更新する際,組織は,次の事項を確実にしなければならない。

a) 適切な識別及び記述(例えば,タイトル,日付,作成者,参照番号)

b) 適切な形式(例えば,言語,ソフトウェアの版,図表)及び媒体(例えば,紙,電子媒体)

c) 適切性及び妥当性に関する,適切なレビュー及び承認

7.5.3 文書化した情報の管理

労働安全衛生マネジメントシステム及びこの規格で要求している文書化した情報は,次の事項を確実にするために,管理しなければならない。

a) 文書化した情報が,必要なときに,必要なところで,入手可能,かつ,利用に適した状態である。

b) 文書化した情報が十分に保護されている(例えば,機密性の喪失,不適切な使用及び完全性の喪失からの保護)。

文書化した情報の管理に当たって,組織は,該当する場合には,必ず,次の活動に取り組まなければならない。

- 配付,アクセス,検索及び利用

- 読みやすさが保たれることを含む,保管及び保存

- 変更の管理(例えば,版の管理)

- 保持及び廃棄

労働安全衛生マネジメントシステムの計画及び運用のために組織が必要と決定した外部からの文書化した情報は,必要に応じて識別し,管理しなければならない。

注記1 アクセスとは,文書化した情報の閲覧だけの許可に関する決定,又は文書化した情報の閲覧及び変更の許可並びに権限に関する決定を意味し得る。

注記2 関連する文書化した情報のアクセスには,働く人及び働く人の代表(いる場合)によるアクセスが含まれる。

8 運用

8.1 運用の計画及び管理

8.1.1 一般

組織は,次に示す事項の実施によって,労働安全衛生マネジメントシステム要求事項を満たすために必要なプロセス,及び箇条6 で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを計画し,実施し,管理し,かつ,維持しなければならない。

a) プロセスに関する基準の設定

b) その基準に従った,プロセスの管理の実施

c) プロセスが計画どおりに実施されたという確信をもつために必要な程度の,文書化した情報の維持及び保持

d) 働く人に合わせた作業の調整

複数の事業者が混在する職場では,組織は,労働安全衛生マネジメントシステムの関係する部分を他の組織と調整しなければならない。

8.1.2 危険源の除去及び労働安全衛生リスクの低減

組織は,次の管理策の優先順位によって,危険源の除去及び労働安全衛生リスクを低減するためのプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。

a) 危険源を除去する。

b) 危険性の低いプロセス,操作,材料又は設備に切り替える。

c) 工学的対策を行う及び作業構成を見直しする。

d) 教育訓練を含めた管理的対策を行う。

e) 適切な個人用保護具を使う。

注記 多くの国で,法的要求事項及びその他の要求事項は,個人用保護具(PPE)が働く人に無償支給されるという要求事項を含んでいる。

8.1.3 変更の管理

組織は,次の事項を含む,労働安全衛生パフォーマンスに影響を及ぼす,計画的,暫定的及び永続的変更の実施並びに管理のためのプロセスを確立しなければならない。

a) 新しい製品,サービス及びプロセス,又は既存の製品,サービス及びプロセスの変更で次の事項を含む。

- 職場の場所及び周りの状況

- 作業の構成

- 労働条件

- 設備

- 労働力

b) 法的要求事項及びその他の要求事項の変更

c) 危険源及び労働安全衛生リスクに関する知識又は情報の変化

d) 知識及び技術の発達

組織は,意図しない変更によって生じた結果をレビューし,必要に応じて,有害な影響を軽減するための処置をとらなければならない。

注記 変更は,リスク及び機会となり得る。

8.1.4 調達

8.1.4.1 一般

組織は,調達する製品及びサービスが労働安全衛生マネジメントシステムに適合することを確実にするため,調達を管理するプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

8.1.4.2 請負者

組織は,次の事項に起因する,危険源を特定するとともに, 労働安全衛生リスクを評価し,管理するために調達プロセスを請負者と調整しなければならない。

a) 組織に影響を与える請負者の活動及び業務

b) 請負者の働く人に影響を与える組織の活動及び業務

c) 職場のその他の利害関係者に影響を与える請負者の活動及び業務

組織は,請負者及びその働く人が,組織の労働安全衛生マネジメントシステム要求事項を満たすことを確実にしなければならない。組織の調達プロセスでは,請負者選定に関する労働安全衛生基準を定めて適用しなければならない。

注記 請負者の選定に関する労働安全衛生基準を契約文書に含めておくことは役立ち得る。

8.1.4.3 外部委託

組織は,外部委託した機能及びプロセスが管理されていることを確実にしなければならない。組織は,外部委託の取決めが法的要求事項及びその他の要求事項に整合しており,並びに労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果の達成に適切であることを確実にしなければならない。これらの機能及びプロセスに適用する管理の方式及び程度は,労働安全衛生マネジメントシステムの中で定めなければならない。

注記 外部提供者との調整は,外部委託の労働安全衛生パフォーマンスに及ぼす影響に組織が取り組む助けとなり得る。

8.2 緊急事態への準備及び対応

組織は,次の事項を含め,6.1.2.1 で特定した起こり得る緊急事態への準備及び対応のために必要なプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。

a) 応急処置の用意を含めた緊急事態への計画的な対応を確立する。

b) 計画的な対応に関する教育訓練を提供する。

c) 計画的な対応をする能力について,定期的にテスト及び訓練を行う。

d) テスト後及び特に緊急事態発生後を含めて,パフォーマンスを評価し,必要に応じて計画的な対応を改訂する。

e) 全ての働く人に,自らの義務及び責任に関わる情報を伝達し,提供する。

f) 請負者,来訪者,緊急時対応サービス,政府機関,及び必要に応じて地域社会に対し,関連情報を伝達する。

g) 関係する全ての利害関係者のニーズ及び能力を考慮に入れ,必要に応じて,計画的な対応の策定に当たって,利害関係者の関与を確実にする。

組織は,起こり得る緊急事態に対応するためのプロセス及び計画に関する文書化した情報を維持し,保持しなければならない。

9 パフォーマンス評価

9.1 モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価

9.1.1 一般

組織は,モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

組織は,次の事項を決定しなければならない。

a) 次の事項を含めた,モニタリング及び測定が必要な対象

1) 法的要求事項及びその他の要求事項の順守の程度

2) 特定した危険源,リスク及び機会に関わる組織の活動及び運用

3) 組織の労働安全衛生目標達成に向けた進捗

4) 運用及びその他の管理の有効性

b) 該当する場合には,必ず,有効な結果を確実にするための,モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価の方法

c) 組織が労働安全衛生パフォーマンスを評価するための基準

d) モニタリング及び測定の実施時期

e) モニタリング及び測定の結果の,分析,評価及びコミュニケーションの時期

組織は,労働安全衛生パフォーマンスを評価し,労働安全衛生マネジメントシステムの有効性を判断しなければならない。

組織は,モニタリング及び測定機器が,該当する場合に必ず校正又は検証し,必要に応じて,使用し,維持することを確実にしなければならない。

注記 モニタリング及び測定機器の校正又は検証に関する法的要求事項又はその他の要求事項(例えば,国家規格又は国際規格)が存在することがあり得る。

組織は,次の事項のために適切な文書化した情報を保持しなければならない。

- モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価の結果の証拠として

- 測定機器の保守,校正又は検証の記録

9.1.2 順守評価

組織は,法的要求事項及びその他の要求事項の順守を評価するためのプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない(6.1.3 参照)。

組織は,次の事項を行わなければならない。

a) 順守を評価する頻度及び方法を決定する。

b) 順守を評価し,必要な場合には処置をとる(10.2 参照)。

c) 法的要求事項及びその他の要求事項の順守状況に関する知識及び理解を維持する。

d) 順守評価の結果に関する文書化した情報を保持する。

9.2 内部監査

9.2.1 一般

組織は,労働安全衛生マネジメントシステムが次の状況にあるか否かに関する情報を提供するために,あらかじめ定めた間隔で,内部監査を実施しなければならない。

a) 次の事項に適合している。

1) 労働安全衛生方針及び労働安全衛生目標を含む,労働安全衛生マネジメントシステムに関して,組織自体が規定した要求事項

2) この規格の要求事項

b) 有効に実施され,維持されている。

9.2.2 内部監査プログラム

組織は,次に示す事項を行わなければならない。

a) 頻度,方法,責任,協議並びに計画要求事項及び報告を含む,監査プログラムの計画,確立,実施及び維持。監査プログラムは,関連するプロセスの重要性及び前回までの監査の結果を考慮に入れなければならない。

b) 各監査について,監査基準及び監査範囲を明確にする。

c) 監査プロセスの客観性及び公平性を確保するために,監査員を選定し,監査を実施する。

d) 監査の結果を関連する管理者に報告することを確実にする。関連する監査結果が,働く人及び働く人

の代表(いる場合),並びに他の関係する利害関係者に報告されることを確実にする。

e) 不適合に取り組むための処置をとり,労働安全衛生パフォーマンスを継続的に向上させる(箇条10参照)。

f) 監査プログラムの実施及び監査結果の証拠として,文書化した情報を保持する。

注記 監査及び監査員の力量に関する詳しい情報は,JIS Q 19011 を参照。

9.3 マネジメントレビュー

トップマネジメントは,組織の労働安全衛生マネジメントシステムが,引き続き,適切,妥当かつ有効であることを確実にするために,あらかじめ定めた間隔で,労働安全衛生マネジメントシステムをレビューしなければならない。

マネジメントレビューは,次の事項を考慮しなければならない。

a) 前回までのマネジメントレビューの結果とった処置の状況

b) 次の事項を含む,労働安全衛生マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化

1) 利害関係者のニーズ及び期待

2) 法的要求事項及びその他の要求事項

3) リスク及び機会

c) 労働安全衛生方針及び労働安全衛生目標が達成された度合い

d) 次に示す傾向を含めた,労働安全衛生パフォーマンスに関する情報

1) インシデント,不適合,是正処置及び継続的改善

2) モニタリング及び測定の結果

3) 法的要求事項及びその他の要求事項の順守評価の結果

4) 監査結果

5) 働く人の協議及び参加

6) リスク及び機会

e) 有効な労働安全衛生マネジメントシステムを維持するための資源の妥当性

f) 利害関係者との関連するコミュニケーション

g) 継続的改善の機会

マネジメントレビューからのアウトプットには,次の事項に関係する決定を含めなければならない。

- 意図した成果を達成するための労働安全衛生マネジメントシステムの継続的な適切性,妥当性及び有効性

- 継続的改善の機会

- 労働安全衛生マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性

- 必要な資源

- もしあれば,必要な処置

- 労働安全衛生マネジメントシステムとその他の事業プロセスとの統合を改善する機会

- 組織の戦略的方向に対する示唆

トップマネジメントは,マネジメントレビューの関連するアウトプットを,働く人及び働く人の代表(いる場合)に伝達しなければならない(7.4 参照)。

組織は,マネジメントレビューの結果の証拠として,文書化した情報を保持しなければならない。

10 改善

10.1 一般

組織は,改善の機会(箇条9 参照)を決定し,労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果を達成するために,必要な取組みを実施しなければならない。

10.2 インシデント,不適合及び是正処置

組織は,報告,調査及び処置を含めた,インシデント及び不適合を決定し,管理するためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。

インシデント又は不適合が発生した場合,組織は,次の事項を行わなければならない。

a) そのインシデント又は不適合に遅滞なく対処し,該当する場合には,必ず,次の事項を行う。

1) そのインシデント又は不適合を管理し,修正するための処置をとる。

2) そのインシデント又は不適合によって起こった結果に対処する。

b) そのインシデント又は不適合が再発又は他のところで発生しないようにするため,働く人(5.4 参照)

を参加させ,他の関係する利害関係者を関与させて,次の事項によって,そのインシデント又は不適合の根本原因を除去するための是正処置をとる必要性を評価する。

1) そのインシデントを調査し又は不適合をレビューする。

2) そのインシデント又は不適合の原因を究明する。

3) 類似のインシデントが起きたか,不適合の有無,又は発生する可能性があるかを明確にする。

c) 必要に応じて,労働安全衛生リスク及びその他のリスクの既存の評価をレビューする(6.1 参照)。

d) 管理策の優先順位(8.1.2 参照)及び変更の管理(8.1.3 参照)に従い,是正処置を含めた,必要な処置を決定し,実施する。

e) 処置を実施する前に,新しい又は変化した危険源に関連する労働安全衛生リスクの評価を行う。

f) 是正処置を含めて,全ての処置の有効性をレビューする。

g) 必要な場合には,労働安全衛生マネジメントシステムの変更を行う。

是正処置は,検出されたインシデント又は不適合のもつ影響又は起こり得る影響に応じたものでなければならない。

組織は,次に示す事項の証拠として,文書化した情報を保持しなければならない。

- インシデント又は不適合の性質,及びとった処置

- とった処置の有効性を含めた全ての対策及び是正処置の結果

組織は,この文書化した情報を,関係する働く人及び働く人の代表(いる場合)並びにその他の関係する利害関係者に伝達しなければならない。

注記 インシデントの遅滞のない報告及び調査は,できるだけ速やかな危険源の除去及び付随する労働安全衛生リスクの最小化を可能にすることができる。

10.3 継続的改善

組織は,次の事項によって,労働安全衛生マネジメントシステムの適切性,妥当性及び有効性を継続的に改善しなければならない。

a) 労働安全衛生パフォーマンスを向上させる。

b) 労働安全衛生マネジメントシステムを支援する文化を推進する。

c) 労働安全衛生マネジメントシステムの継続的改善のための処置の実施に働く人の参加を推進する。

d) 継続的改善の関連する結果を,働く人及び働く人の代表(いる場合)に伝達する。

e) 継続的改善の証拠として,文書化した情報を維持し,保持する。